2015
オランダ壁画プロジェクトNetherlands


2015


2015年に始まったOver the Wallはこれまでアフリカの貧困地やウクライナの紛争地、エクアドルの⼥性刑務所など、様々な社会問題を抱えながらそれを乗り越えようとする⼈々と協⼒しながら、彼らを後押しする壁画を作ってきました。今回Over the Wall は⽇本と関わりが深く、今年外交関係425周年を迎える最も古い交易関係を持つ欧州諸国の⼀つであり、多様な⺠族で国家を形成してきた背景を持つオランダに、「共⽣」をテーマにした壁画を制作したいと思いプロジェクトを企画しました。
またミヤザキケンスケの故郷である佐賀県は2016 年に駐⽇オランダ⼤使館と「クリエイティブ連携・交流に関する協定」を締結しています。なかでも南ホラント州に位置するデルフト市(Delft)は、17 世紀オランダ東インド会社を通じて中国から磁器が伝わったことがきっかけで、当時⽇本から輸⼊されていた有⽥焼(佐賀県)の影響の受け、独特の陶器が発展してきました。「デルフトブルー(DelftBlue)」と呼ばれる⻘と⽩の陶器で世界的に有名で、現在でも職⼈たちが伝統的な技術を受け継いでおり、佐賀県ともゆかりの深い町です。今回は佐賀県の紹介でデルフト市での壁画制作を実現することができました。






デルフト市立プリンセンホフ博物館と若者の支援を行っているCANIDREAMが共同で行うブイテンホフ地区の壁画プロジェクト「NOBIS」は今年で4回目となります。Over the Wallはその「NOBIS 4」とコラボレーションし、壁画制作を行いました。Over the Wallとともに、地元アーティストであるラクシュミ・マヌエラも同時期に壁画を制作。両者の作品には、「Restoring the Balance(バランスを取り戻す)」という共通テーマが掲げられ、共有された歴史や異文化協力、そして集団的な記憶と創造の力が表現されています。

日本とオランダは今年交流425周年を迎えました。その始まりは425年前、オランダ共和国の商船リーフデ号が大分県に漂着したことに遡ります。なかでも有田焼がある佐賀県は17世紀に東インド会社を通じて盛んに交流があり、青と白の染付け技法を用いた陶磁は当時ヨーロッパで高い人気を博し、デルフト焼に影響を与えたとされています。
今回は佐賀県とデルフト市をつなぐ壁画の象徴として、大きな陶磁の壺を描きました。中央にはデルフト焼の花のモチーフを、下部には有田焼の「染付有田皿山職人尽し絵図大皿」の一部を描き、400年前からの「つながり」を表現。その壺に生けられている花々は、この街に暮らす人々の多様なルーツを表しています。
背景には、日本の象徴として葛飾北斎の「神奈川沖浪裏」を描きました。日本とオランダをつないできたのは海であり、また海での交流を通じて多様な文化や人々が交わり、現在の寛容なオランダの姿へとつながっていると考えています。波しぶきが花となり街を埋め尽くす様子は、多様な地域の人々や文化がこの地で花開く姿を重ねました。さらに壁画の下部には、団地の子どもたちの姿も描き込んでいます。
右上に描かれた太陽は、これまでOver the Wallが世界8カ国の壁に描いて来たものと同じものです。これには「世界の人々は同じ太陽の下で暮らしている」というメッセージが込められています。




ベランダで戯れるカラフルな鳥たちのさえずりを聞きながら、近くのスーパー「リドル」で買ったいろんな種類のチーズやハムを、僕らはそれぞれ好きなようにパンに挟んで頬張る。朝の強い日差しに目を細めながら、窓から入ってくる少しひんやりした風に心地よい一日の始まりを感じる。灼熱の日本から遠く離れたオランダでの暮らしは驚くほど快適で、いくらでもこの生活を続けることができそうだ。団地の階段を降りると老人たちがベンチでゆったりと会話をしていて、
「Goedemorgen!(おはよう)!」
と声をかけると手を上げて返してくれた。ショパン・ラーンからハイデン・ラーンに入り、シューベルト・ラーンを通って壁画へ向かう。この団地はすべての通りが音楽家の名を冠している。壁画の前に来るとトラックに乗ったドレッドの若者が窓から身を乗り出しながら壁画を見ていた。つなぎ姿の僕に気がつくと、
「Moooi(素敵だね)!!」
と言って親指を立ててくれた。絵の具を並べ制作の準備を始めていると、どこからともなく新聞記者のヤールーンさんが現れて、いつものように壁画の進行具合を聞いてくる。オランダ人は気さくで、話好きな人が多い。ハシゴを使って足場の一番上まで登ると、ブイテンホフ地区の多様な人々の日常が垣間見える。子供を自転車のカゴに乗せて先を急ぐヒジャブ姿のお母さん、大きな犬を散歩させるロン毛の白人男性、丁寧に編み込んだ髪を揺らしながら遊んでいる黒人の姉妹。多様なバックグランドを持つ彼らと生活する中で、自分がアジア人であることを意識する瞬間は一度もなかった。
今回の壁画は日・オランダ交流425周年の記念事業として、デルフト市立プリンセンホフ博物館、CANIDREAMの協力を得てデルフト市にある団地の壁に描かれた。ここはデルフト市の中でも特に多様なルーツを持った人々が暮らしている地域だ。佐賀県の協力で期間中に3名の高校生も壁画制作に参加してくれた。真っ白だった彼らのつなぎは4日間のうちにカラフルに彩られ、それは、彼らが精一杯プロジェクトに打ち込んでくれた証だと言える。高校生たちが交流した団地の子供達もお披露目会にやって来て、自分たちが描いた壁画を誇らしげに見上げていた。
制作環境がマリウポリの壁画と似ていたこともあり、何度かウクライナを思い出すことがあった。3年前の砲撃で大きな被害を受けたマリウポリの街と小学校の壁画、あの時一緒に過ごした子供たちの顔は今もはっきりと覚えている。オランダの子供達のはしゃぎ回る姿を見ながら、世界が平和であって欲しいと強く思った。アフリカに、ウクライナに、南米に、アジアに描いてきたOver the Wallの太陽を、ここオランダの地に描けたことで、
「世界中の人々は同じ太陽のもとで暮らしている」
というメッセージが、より強固なものになったと感じた。
2025年8月25日
Over the Wall 世界壁画プロジェクト
アーティスト ミヤザキ ケンスケ




「つながりTunagari」
2025年8月25日
15m × 12m
プロジェクト期間 : 2025年8月3日 〜 8月31日
© Over the Wall