2007
2007
ウクライナ東部に位置するマリウポリ市は、2014年のウクライナ騒乱以降、国内避難民を多く受け入れています。2016年7月に国際連合難民高等弁務官事務所(以下UNHCR)と連携して、City of Solidarityの宣言を採択し、多様な人々の共生や平和復興に力を注いでいる都市です。
今回は現地UNHCRと協力して「連帯、平和」をテーマとして、紛争により破壊された壁に希望を取り戻せるような壁画を制作し、国内避難民をはじめとして、虐げられた人々が連帯参加できるようなプロジェクトを行う目的でマリウポリ市より誘致されました。また2017年はウクライナと日本の外交関係樹立25周年にあたり、ウクライナ政府が日本―ウクライナ友好年に指定しており、「ウクライナにおける日本年」の事業として活動しました。
日本とウクライナの国交25周年を記念して描いた壁画です。世界中の人々が手を取りあって同じ方向に走っている様子を表現しました。左右には日本のシンボルツリーのサクラが満開に咲き、オープニングセレモニーの際に壁画の前にサクラの木を植樹しました。
テーマとして選定したものは、ウクライナの童話「てぶくろ」。
日本でも非常に有名な童話で、寒い雪の日に動物達が手袋を見つけて、手袋の中に入っていく話です。狭い手袋だが動物たちは次々に来る動物たちを快く受け入れ、みんなで一つの温かい手袋をシェアします。
この童話こそ、マリウポリ市が目指すCity of Solidarity、多様な人々の共生や平和復興のテーマに符合していると感じ、テーマに選びました。
手袋の中にはウクライナのいろんな地方の人々を描いており、西ポジーリャ、中央ポジーリャ、西ポリッシャ、東ウクライナ、中央ウクライナ、南ウクライナ、カルパティ、またウクライナ以外にも世界中の人々も描いています。また手袋にはウクライナ発祥のイースターの卵がのっていて、手袋の温かさでひよこが孵っています。人々の温かい心が希望の卵を孵し、未来を切り開いていくメッセージを込めて描きました。
ウクライナの子供たちと、次の開催地エクアドルの子供たちに届けるフラッグ制作をしました。
このフラッグは来年エクアドルに届けられ、エクアドルから次の国へリレーされていきます。
株式会社サクラクレパス様より協賛していただく画材を使って、ミヤザキケンスケ指導のもとキエフ、マリウポリの子供たち、および難民、国内避難民の子供たちに絵画教室を行いました。
アクリル絵の具を使い自由に表現してもらい、優秀な作品を制作した子を表彰しました。
強い日差しが差し込む荒れたグランドで、逃げ場もなく正面から太陽の光を浴びて立ち続ける。少しの変更をするために、10メートルもの足場をよじ上らなければならない。気づけば足は傷だらけ、勢いをつけて一気に最上階まで登ると、遠くにうっすらアゾフ海の港と、無数の煙突が見えた。この街のにおいは鉄のにおいだとタクシーの運転手がいっていた。ギリシャにルーツを持つこの港町には、ソビエト時代の製鉄所が異様な存在感を放っている。その労働者のために作られた団地群は老朽化が進み、さらに3年前の砲撃で大きな被害を受けていた。
ウクライナ、マリウポリでの壁画制作は、これまでにない緊張感で行われた。ほんの数キロメートル先はいまも戦闘が行われている警戒地域でありながら、ドネツクなどから移動して来た4万人もの国内避難民を受け入れている。現地UNHCRの協力のもと、「City of Solidarity 」をテーマに一年に渡って準備を進めて来た。はじめてこの町に着いた日は大雨で、戦線のために封鎖されたゲートや、生々しい砲撃の痕に不安を感じたが、制作を進めるごとに近所の子供たちが遊びに来るようになり、言葉が通じないなりにコミュニケーションを取れるようになった。
「コンニチワ! アリガトウ!」
「ドーブリディーニ! スパシーバ!」
お互いに知っている言葉はこれだけだが、このやり取りを続けるうちに徐々に町にとけ込んでいった。様々なメディアに取り上げられたこともあり、地元ではちょっとした有名人になっていた。
壁画には平和を願う気持ちが込められている。ウクライナの童話「てぶくろ」をモチーフに、大きな手袋の中で様々な民族、宗教、職業の人たちが肩を寄せ合っている様子を描いた。手袋の上に描かれた大きなイースターエッグからは、人々の温かさでひよこが孵っている。そしてそのひよこは成長して大空を羽ばたき、今度は人々に幸せをもたらしている。
日本とウクライナ国交25周年という節目の年に、日本とウクライナの架け橋となる壁画を残すことが出来たことを大変感謝している。この壁画がこの町の平和のシンボルとなり、この先も多くの人の心に温かい気持ちを与えてくれればと願う。
Over the Wall 世界壁画プロジェクト アーティスト
ミヤザキ ケンスケ
School No.68 マリウポリ
2017年7月29日
1,100 x 1,100 cm
Art-zavod Platforma キエフ
2017年7月7日
345 x 1,100 cm
千田悦子氏 / UNHCR現地職員
© Over the Wall