2013
2013
現在アフリカは大きく発展しようとしており、特にケニアは高度経済成長期に入り、建築ラッシュで地価や建築資材が驚くほど高騰しています。そのように経済が成長していく一方で、障がい児に対する適切な医療や教育を行うことができる専門家や施設は限られ、医療保険や福祉サービスなどはほとんどなく、障がい児をもつ家族は経済的にも厳しい状況に置かれています。さらに、障がい児に対する差別や偏見も大きく、肩身の狭い思いをしながら、その子らを育てている家庭も少なくありません。
そんなケニアで、障がい児とその家族のために開設した「シロアムの園」を運営する小児科医の公文和子さんの活動に感銘を受け、現地で障害児の子供たちと一緒に施設のシンボルとなる壁画を制作したいと、今回のプロジェクトを立ち上げました。
ケニアに住む障がいをもつ子供と、その家族を対象にした療育支援を行う施設で、小児科の日本人医師・公文和子氏が代表として2015年に設立。ひとりひとりの違ったニーズにあった、質の高い教育や医療の提供を目指されています。
ここでは公文氏やスタッフが、愛情のこもった安心できる環境を作り、子供たちとその家族たちが持っているものを活かし、ひとりひとりが生きることの喜びを感じることができるよう目指しながら活動しています。
ケニアでは障害を持つ⼦供たち、またその家族が差別や偏⾒の対象とされてきました。また経済状況やインフラの不備により、障害のある⼦供がバスなどの公共交通機関や⾞椅⼦で移動することも難しく、⼦供たちはずっと家の中だけで⽣活を余儀なくされています。そういった環境下では、⾃⼰肯定し、⾃分の存在を⽰すことは⾮常に難しい作業です。
しかし、ここで⼦供たちが⽣まれながらに持っている感性や表現⼒を引き出し、オンリーワンのアートを制作できれば、子供たち自身が自らの個性に誇りが持てるのではないかと考えました。
シロアムの園の名は、「様々な違った形、違った⾊、違ったサイズ、違ったものがGardenを美しくする」という想いから名づけらたそうです。シロアムの園の壁⼀⾯に園(ガーデン)を描き、それぞれの子供たちをイメージした花を一輪ずつ描き、彼らの名前を記しました。そしてその中心には子供たち一人一人が花びらを描いて完成させた、大きなシンボルフラワーを描きました。
ベナンの子供たちと、次の開催地パラオの子供たちに届けるフラッグを制作しました。
このフラッグは来年パラオに届けられ、ベナンから次の国へリレーされます。
白くモヤがかかる朝焼けの中を、眠い目をこすりながら、うっすら見えてくる壁画まで歩いていく。標高が高いこの地域では、8月といっても気温は低く、吐く息は白い。
それにしても、こんなに静かな環境で壁画を描いたのは初めてかもしれない。
誰もいないシロアムの園は幻想的で、まるで天国にいるかのように美しく心が落ち着く。しばらく壁画を眺めながら、今日の作業工程を考える。ところが、子供たちと一緒に描くメインの花が手付かずで、なかなかイメージが浮かんでこない。しばらく壁画の前に佇んでいると、エプロンをしたメシャックがこちらに笑みを浮かべながら近づいてくる。
「ハバリガーニ?」
「ムズーリ・サーナ!」
簡単な挨拶を交わすと、自然と笑みがこぼれてくる。おそらく朝食の準備ができたのだろう。はにかみながらカンファレンスルームを指差している。シロアムの園での一日はとても穏やかで、自然と優しい気持ちになる。
今回のこのシロアムの園での壁画制作は、新しい挑戦の連続だった。障がいのある子供たちにどうやって壁画を描いてもらうのか?彼らの意思をどう作品に反映させるのか?考えれば考えるほど難しい課題であり、新しい共同制作への挑戦は、僕をとても不安にさせていた。
「彼らが自分で描いたと実感できる壁画にできるだろうか?」
ワークショップの当日。子供たちの前で初めてデモンストレーションを行った時、僕のその悩みが杞憂だったと気づいた。赤、青、黄色、カラフルな塗料が前に並ぶと、子供たちは目を輝かせながら、それぞれの表現方法で描き始めた。上半身が不自由な子は足で絵の具を塗り、目が見えない子は手で絵の具の感触を確かめながら描いていった。ここにいる子供のほとんどは言葉で意思を伝えることが難しい。その彼らのわずかな反応から、彼らが望む色を察し用意すると、彼らはその色を取り描き始める。ぼくらはここで、彼らのなかに眠っていた“表現する喜び”を目の前にすることができた。
彼らのその生き生きとした表情と、一人一人の個性を目の当たりにしたとき、これが<アートのちから>なのだと確信した。すべての人が自分を表現したい欲を持ち、そこに生きる喜びがある。そのことを、彼らの作品から強く感じた。
シロアムの園の子供たち一人一人が描いたのは、花びらだった。それらを一枚ずつ壁画に貼り付けていくと、一輪の大きな花が出来上がる。
「この作品は私が目指している<それぞれの個性が違うことが美しい>が、そのまま表現されている。」
夕暮れの中、このシロアムの園の代表である公文和子さんが呟いた。これ以上ない、素晴らしい壁画が完成した瞬間だった。
2023年9月14日Over the Wall 世界壁画プロジェクト アーティスト
ミヤザキ ケンスケ
「The Garden of Siloam」
2023年8月10日
1,000 x 240 cm
「Symbol of the Garden of Siloam」
2023年8月10日
300 x 400 cm
「TAKESHI NIHONGO GAKKOO Mural」
2023年7月19日
300 x 300 cm
プロジェクト期間 : 2023年7月16日 〜 8月10日
順不同
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