2009
2009
1804年に独立を果たしたハイチは世界初の黒人による共和制国家ですが、ハイチ大地震(2010年)で大きな被害を受けた災害国家でもあります。今回はハイチの首都ポルトープランスにある最大のスラム街の1つ、シテ・ソレイユにて国境なき医師団と協力して、同団体の病院に壁画を描きました。
医療現場である病院に明るい壁画を描くことで患者の精神的ケアを図り、また患者自身が制作に参加することで能動的な意識を持ってもらいたいと企画しました。患児も保護者も医師もスタッフも一緒に制作をすることで立場を超えた交流が生まれ、医療の現場にもよい効果をもたらせたのではないかと考えています。
ハイチの民話「魔法のオレンジの木」から構想を得て制作をしました。この物語は18世紀のプランテーション時代に食べ物と宿を乞うた専門の語り部、メトル・コントが語り継いだ話と言われています。不思議なオレンジの木が無限に大きくなってたくさんの実をつけるお話です。物語の舞台である森の中にいるかのように、壁一杯に森の動植物を描き、たわわに実ったオレンジの木を希望の象徴として描きました。今回の壁画は病院の壁であり、けが人や病人が集まる場所では心が休まり、落ち着ける環境が望まれます。植物の緑は「癒し」の効果があると言われ、豊かな森の中にいるような気持ちでリラックスできる壁画になればと思い描きました。
ハイチの子供たちと、次の開催地パキスタンの子供に届けるフラッグ制作をしました。このフラッグは来年パキスタンに届けられ、パキスタンから次の国へリレーされます。
株式会社サクラクレパス様より協賛していただいた画材を使用して、ミヤザキケンスケ指導のもとL’Ecole de Saint Vincent特別支援学校の子供たちに絵画ワークショップを行いました。視覚障害、聴覚障害などのハンディキャップを持った子供たちと共に、アクリル絵の具を使って自由に表現してもらい、優秀な作品を制作した子を表彰しました。
ガタゴトと穴ぼこだらけの道路を進んだ先に、大きな鉄のゲートがある。赤と白のロゴと、銃を持った人間は何人たりとも通さないというポリシーが記された重厚な門が、トランシーバーの合図でゆっくりと開いていく。世界の紛争地の最前線に真っ先に駆けつける国境なき医師団(MSF)のベースキャンプ、夢にまで見たこの地での3週間の活動が始まった。
日中凄まじく気温が上がるハイチでは、涼しい朝の内に作業を開始する。まだ暗いうちに起き出して、蚊帳が吊られたベッドから這い出す。連日の作業と日焼けで体中に痛みを感じるが、そんなことはおかまいなしにジェフィーがノックしてくる。
「Hi Bro! Good morning!」
首都ポルトープランスのシテソレイユ地区にあるMSFの病院は、バラックが立ち並ぶスラム街にあるものの、ここだけはまるで別世界のように緑豊かで美しい施設だった。ひんやりとした朝の風を感じながら作業を始めるが、数時間もすると強烈な日差しが照りつけてきて、あっという間に汗だくになる。日本から遥かに遠いカリブ海の島国での活動は、現地の情報が得にくい点で困難を極めた。現地との連絡が思うように取れず、特に安全面の不安から実施を断念しかけたが、現地の若者ジェフィーと出会えたことで可能になった。
夕方になると入院患者の母親カリンが来て、ミヌクにクリオール語を教え出す。全身に火傷を負って入院しているジュシーは、今日は何を描こうかと植物の写真を物色している。日暮れ近くになるとぞろぞろと仕事の上がりのMSFのスタッフが集まり、気がつけば多くの人に囲まれて壁画を描いていた。プロジェクトリーダーのマリーは、
「医療の現場にアートが必要なことがよく分かった。きっとMSFの現場にポジティブな変化を与えるきっかけになるわ」
といってくれた。タバコ好きのマイケルも、太陽のようなタティアナも、冗談好きなローも、盛り上げ上手なモーガンも、天才肌のベルナルドも、ダンスが上手なティエリーも、料理好きなマリオも、みんな壁画制作に参加してくれていた。
世界中の紛争地で活動する彼らと、このハイチの土地で一緒に絵を描けたことはきっと生涯忘れない。まだ情勢が不安定なハイチではあるけれど、いつかまたこの壁画を見に帰ってきたい。強い太陽の光と緑豊かなハイチの地に、この壁画はよく映えていた。
2019年7月20日
Over the Wall 世界壁画プロジェクト アーティスト
ミヤザキ ケンスケ
「魔法のオレンジの木」
2019年7月12日
1,200 x 400 cm
「小児科の絵」
2019年7月14日
800 x 250 cm
「廊下の絵」
2019年7月16日
2,000 x 250 cm
「休憩室の絵」
2019年7月16日
600 x 250 cm
オーバーザウォール年間サポーター / パスポートホルダー
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