2012
2012
パキスタンにて日本の文化を伝える活動を行っているパキスタン・日本文化協会(シンド)のサポートを受け、パキスタン·日本国交樹立70周年記念事業の一つとしてカラチ市のNational Institute of Child Health(NICH)病院に壁画を制作しました。
NICHはシンド州政府が管轄しているベッド数553床という大病院で、子供たちは無料で治療を受けることができます。パキスタンでは、日本で義務教育を受ける年代にあたる子供たちの就学率が低いと言われています。
その未就学の子供たちの多くが労働力となっており、貧困も就学を妨げる原因となっています。そんなパキスタンの現状を鑑み、今回は現地の子供たちと、未来への大きな希望を抱ける壁画を制作しました。
今回の小児病院に壁画を描くにあたり、病院側から提示していただいたテーマは「Safety, Protection & Hope」でした。
パキスタンでは未就学の子供たちが労働力となっており、健康状況が良くない子供が多くいます。また今年9月に同国を襲った壊滅的な大洪水は、528人の子供たちの命を奪いました。未来ある子供たちに、安全で守られた社会を作ること、そして彼らに明るい未来を見せることが必要だと思いました。
テーマとして選んだのは「ミドリウミガメ」です。カラチは漁師の町として始まり、アラビア海の地域との交易の中心地となり発展していきました。現在もミドリウミガメが生息しており、多くの市民団体がその保護に力を入れています。ウミガメは長寿の象徴であり、「幸運」と「平和」をもたらすといわれています。しかしその産卵は命がけであり、卵が孵化して成長するまでには多くの困難を乗り越えなければなりません。 人間にとっても幼児期は非常に大切で、多くのサポートが必要です。
大きなミドリウミガメの下に卵を「未来の子供の姿」として表現し、色とりどりの花々に包まれ、人々に支えられている様子を描きました。そしてその「未来の子供たち」が成長して夢を叶え、私たちに幸福をもたらしてくれる姿をイメージしています。ミドリウミガメの背中にはパキスタンの子供たちにワークショップで描いてもらった夢が描かれています。
パキスタンの子供たちと、次の開催地ベナンの子供たちに届けるフラッグを制作しました。このフラッグは来年ベナンに届けられ、ベナンから次の国へリレーされます。
株式会社サクラクレパス様より協賛していただいた画材を使用して、ミヤザキケンスケ指導のもとNational Institute of Child Health病院、在カラチ日本国総領事館内にある広報文化センター、パキスタン北部に位置するグジュラーンワーラのサイエンス・スクール・グジュラーンワーラの3箇所で絵画ワークショップを実施しました。広報文化センターでは孤児院の子供達と共に、アクリル絵の具を使って自由に表現してもらい、優秀な作品を制作した子を表彰しました。
けたたましいサイレン音と共にクラクションが鳴り響く。車の窓から顔を出して誰かに文句を言っているドライバーの目前をすり抜けて、僕らのワゴンは病院のゲートに滑り込んでいく。壁画制作のあいだにすっかり顔なじみになったガードマンが手を挙げて合図すると、ワゴンが人混みをかき分けるように病院の敷地に入っていく。
「アッサラーム・アレイクム!」
車を降りるや否や大勢の人に囲まれ、一人ずつと握手を交わしながら挨拶をする。気づけば人だかりはさらに大きくなっており、そこへまた車のクラクションが鳴り響く。到着を待ちわびていたアクアバットが水をくんだバケツを並べ、準備万端とばかりにこちらを見ている。 さびついた鉄パイプとリサイクル資材で組まれた足場をのぼると、カラチの街が一望できる。カラチの海岸まで目と鼻の先だが、スモッグで遠くまでは見渡せない。押し合いへし合いしながら生きているこの街の人々のエネルギーは、ものすごい。
このパキスタン壁画プロジェクトを実現させるまでに、僕らは実に3年もの月日を費やした。2020年に実施予定だったこのプロジェクトは、 新型コロナウィルスのパンデミックで延期を繰り返し、一時は中止も止むなしとも思われた。しかし今年2022年、パキスタン·日本外交関係樹立70周年の記念事業として、PJCA (Pakistan Japan Cultural Associations/パキスタン·日本文化協会)が僕らの壁画プロジェクトを招致する形でプロジェクトが実現されることになった。壁画制作の場所は、カラチ市の中心部にある無償で医療を提供している小児病院である。
壁画プロジェクトでは、毎回その国の民話や絵本などを調べテーマとなるもの決めている。今回僕がパキスタンでの壁画のテーマに選んだのは「ミドリウミガメ」だった。壁画制作の場所である小児病院にいる子供たちのことを思い、カラチの海岸で産卵するウミガメ達の姿を、子供の命の象徴として描くことにした。ウミガメの下には卵が色とりどりの花々に囲まれている。この花々はパキスタンの人々が思いを込めて一輪一輪描いた。現地校の子供たち、日本人学校の生徒達、領事館の方々、ドクターや病院スタッフ、ガードマン、ドライバー、総勢350人以上の人々が参加してくれた。実際壁画を描いているときの彼らの表情はとても楽しそうで、言葉や文化、宗教を越えて、アートが人と人を結びつけていると強く感じた。初日から1日もかかさず絵を描きに来たガードマンのアユーブは、
「この壁画は俺たちみんなで描いたものだ。これからは俺たちがこの壁画を守っていくよ!」
と胸を張って言ってくれた。彼らと共に迎えた完成の瞬間のことは、 きっとこの先も忘れられない記憶となるだろう。
ウミガメの上には卵から孵った子供たちの成長した姿が描かれている。クリケット選手、サッカー選手、アーティスト、歌手、医者、科学者、サウジアラビアの石油王など、彼らの思い描く夢が一つでも叶うことを願いつつ、この壁画が子供たちの希望のシンボルとなればと思っている。
2022年12月3日
Over the Wall 世界壁画プロジェクト アーティスト
ミヤザキ ケンスケ
カラチのミドリウミガメ」
2022年11月24日
7,000 x 10,000 cm
「新生児集中治療室の絵」
2022年11月25日
25,000 x 2,000 cm
オーバーザウォール年間サポーター / パスポートホルダー
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